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水戸地方裁判所土浦支部 昭和47年(ワ)99号 判決

原告 斉藤任弘

同右 小松原幸男

右原告両名訴訟代理人弁護士 我妻真典

同右 永瀬精一

被告 伊奈村

右代表者村長 中島喜雄

主文

一、被告は、原告斉藤任弘に対し、金六五万二、七〇〇円および昭和五一年二月から毎月二一日限り金一万一、八〇〇円を、同小松原幸男に対し金八三万二八〇円および昭和五一年二月から毎月二一日限り金一万九、六〇〇円を、それぞれ支払え。

二、訴訟費用は、被告の負担とする。

三、この判決は、仮に執行することができる。

事実

(請求の趣旨)

一  被告は、原告斉藤任弘に対し金五三万四、七〇〇円および昭和五〇年四月から毎月二一日限り金一万一、八〇〇円を、同小松原幸男に対し金六三万四、二八〇円および昭和五〇年四月から毎月二一日限り金一万九、六〇〇円をそれぞれ支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  仮執行の宣言。

(請求の趣旨に対する答弁)

一  原告両名の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告両名の負担とする。

(請求の原因)

一1  原告斉藤任弘(以下原告斉藤という)は、昭和二三年二月一日、旧制中学卒業後、当時の茨城県筑波郡小張村役場に書記として就職し、同二九年七月一日、町村合併により被告伊奈村の書記となり、同三一年に経済課長、同三四年に公営企業課長、同三六年に税務課長、同三八年保健衛生課長、同三九年五月に課長を解職されて以後、税務課の主事を務めており、原告小松原幸男(以下原告小松原という)は、昭和二九年三月一日、高校卒業後、右小張村役場に書記として就職し、町村合併により被告伊奈村の書記となり同三六年一〇月、主事と名称変更があって以後現在まで主事を務めていて、原告両名はいずれも一般職の地方公務員である。

2  昭和四六年一二月末現在の原告両名の等級、号俸、本俸月額は次のとおりであった。

原告斉藤 三等級 特七号 七万七、一〇〇円

原告小松原 三等級 一六号 六万七、一〇〇円

3  被告伊奈村は、昭和四七年一月一日付をもって、当時三等級の職にあった者のうち、中学卒業者については、一三年以上、高校卒業者については一〇年以上、短大卒業者については八年以上、大学卒業者については六年以上それぞれ在職している者を対象に、二等級に昇格させた。

しかるに、被告伊奈村は、他の同一資格者全員を昇格させたにも拘らず、原告両名のみを昇格させず、前記等級、号俸、本俸のまま据え置いている(以下本件昇格延伸という)。

二1  従前、被告伊奈村において昇格が行われる場合、何らかの合理的理由がない限り、有資格者全員が当然に昇格していた。以上の事実に徴すると、原告らを含め、職員と被告伊奈村との間には昇格が行われる場合、合理的理由がない以上、形式的要件を満せば当然に昇格するという黙示の合意が成立したものというべきであり、かりに合意の成立が認められないとしても、さような内容の事実たる慣習が成立していたものであり、労働契約の当事者に反対の意思が認められないから、みぎの当然昇格のことは、労働契約の内容を成していることは明らかである。

したがって、原告らの昇格延伸につき、何等の合理的理由がない以上、原告らは他の昇格者と同様、昭和四七年一月一日付で、二等級に昇格したものというべきである。

2  しかして原告両名が二等級に昇格した以上、右同日以後原告両名が就くべき号俸はそれぞれ別表(一)(二)「あるべき給与額」の「号俸」欄記載のとおりであり、得べき給与額はそれぞれ同表「あるべき給与額」の「本俸一欄(月額本俸は「本俸月額」欄記載のとおり)「賞与」欄の各支給額記載のとおりである。

しかるに前述のとおり、原告両名は給与の上で三等級に据え置かれたため、それぞれ右同日以後同表「実支給額」の「本俸」欄「賞与」欄の各支給額記載の給与しか支給されていない。

したがって原告両名は、昭和四七年一月一日から二等級に昇格したことによって当然に右「あるべき給与額」の「本俸」「賞与」欄記載の各支給額の支払を受ける権利を有するのに、現実には「実支給額」の「本俸」「賞与」欄記載の各支給額しか支給されておらず、その差額が未払であるから被告伊奈村に対しその差額の支払を求めるものである。

右差額の合計は、昭和五〇年三月末日までで、原告斉藤につき金五三万四、七〇〇円、同小松原につき金六三万四、二八〇円である。又、昭和五〇年四月一日以降毎月二一日の給与支払日に至るも本俸につき毎月原告斉藤については金一万一、八〇〇円、同小松原については金一万九、六〇〇円の差額未払が継続している。

三  かりに原告両名が、昭和四七年一月一日付で、当然に二等級に昇格したものではないとしても、前記の労働契約に基き、被告伊奈村は、原告両名に対し、昭和四七年一月一日付で二等級に昇格させる作為義務を負っている。しかるに被告伊奈村は右義務を履行しなかったので、原告両名に対し、債務不履行にもとずく損害を賠償すべき義務を有するところ、その損害額は被告伊奈村が右債務を履行したならば、原告両名が得たであろうと考えられる利益であるから、結局前記二の2記載の額と同額である。

四1  被告伊奈村は地方公共団体であって、被告伊奈村代表者村長中島喜雄(以下中島村長という)は公務員であり、本件昇格延伸は、その職務執行としてなされたものである。

2  本件昇格延伸は地方公務員法一三条、五六条に違反し、違法な公権力の行使である。すなわち

(一) 原告斉藤は現在一三九名の被告伊奈村の職員のうち七六名をもって組織されている未登録職員団体(以下組合という)の執行委員長、同小松原はその書記長である。

(二) 中島村長は従来から組合を嫌悪していたが、昭和三六年ころから組合弾圧を一層強化し、極度の組合敵視政策のもとに管理職の範囲の拡大強化をはかりつつ、組合員に対する組合脱退の強要、組合活動家に対するいやがらせ、差別、組合活動に対する干渉等ありとあらゆる圧力を加えて組合の弱体化、組織破壊を行ってきた。その具体的事例は次のとおりである。

(1) 昭和三六年の賃上げ斗争において、中島村長は一旦組合との間で妥結した協定を一方的に破棄した。

(2) 昭和三七年一一月、課長職にある組合員に対し、組合から脱退させる目的で管理職手当を支給した。

(3) 昭和三七年一二月一四日、当時税務課長であった原告斉藤に対し、「組合活動に積極的に協力している」との理由で退職を強要した。

(4) 昭和三九年四月、当時の課長五名に対し、各課長は管理職手当を支給されており一般職員とは異なるとの理由で組合からの脱退を強要し、原告斉藤を除く四名の課長を組合から脱退せしめた。

(5) 昭和三九年五月一日、原告斉藤に対し、「管理職が組合員であることは好ましくない」との理由で、「勤務成績が悪く、その職に必要な適格性を欠く」との口実のもとに保健衛生課長を解任した。

(6) 昭和三九年一二月二一日、当時の課長補佐五名に対し、新たに管理職手当を支給して利益誘導し、訴外吉村照を除く四名を組合から脱退させた。

(7) 昭和四〇年一月二一日、組合を脱退しなかった右訴外吉村照に対し、課長補佐の管理職手当の支給を同年一月分以降打切った。

(8) 昭和四〇年四月一九日、同月一日付で課長補佐の辞令を交付した組合員の訴外堀越栄一に対し、「組合員は管理職としてふさわしくない」との理由で、先に出した辞令は間違いであったとしてその返還を求め、辞令を取り返した。

(9) 昭和四二年一二月、管理職を係長まで拡大したうえ、昭和四三年にいたるまでの間に組合員六名を脱退せしめた。

(10) 組合員特に原告両名は、役職上で著しい差別を受けている。昭和四九年二月一日現在の職員の役職は、別表(三)のとおりであり、その差別は歴然としている。また、賃金の差別も著しい。昭和四一年度から同四九年度までの賃金について、原告両名に限ってみると、同じ職種、年令、学歴、家族、状況にある者との間で比較してみると、次のように一見して差別の実態が明らかになる。

(イ) 原告らと比較される者との職種、学歴等の区別

氏名

生年月日

被告村就職年月日

学歴

職種

(1)原告斉藤任弘

大正一三、五、一一

昭二三、二、一

旧制中学五年

一般事務職

宮田誠治

大正一二、七、二一

昭二一、三、一

芝浦旧高専

右同

飯泉登

大正一四、二、一六

昭二五、一、一

旧制中学五年

右同

(2)原告小松原幸男

昭和一〇、二、五

昭二九、三、一

新制高卒

右同

入江和義

昭和九、一二、一一

昭二八、三、一

右同

右同

塚越磯雄

昭和一〇、四、一六

昭三一、九、一

右同

右同

(ロ) 昭和四一年度ないし昭和四九年度の年間給与支給総額比較

別表 (四)(その一・その二)記載のとおり。

また、原告両名と右の者との職名および号俸および給料月額を比較すると、別表(五)(その一・その二)記載のように歴然たる差別が存在する。

(三) 被告伊奈村は、前記のとおり昭和四七年一月一日付をもって、高校卒業後一〇年以上被告村役場に勤務する職員で三等級の職にある者を二等級に昇格させた。

当時、右昇格の有資格者は原告両名のほか以下の者であった。

訴外只越苗江、同古谷秀子、同鈴木良枝、同篠塚勇、同菊地よし江、同鈴木あい子、同沖淵よし子、同野島好雄、同富山文男、同済賀幸子、同松崎好世、同沖淵一仁、同米沢弘道、同杉浦ヒロ子、同山中みつい、同野口幸雄

右のうち原告両名及び訴外野口幸雄を除くその余の者すべてが昭和四七年一月一日付で(但し右米沢、山中は若干遅れて)二等級に昇格させている。

なお、訴外野口幸雄に対する昇格延伸は、同人が組合の執行委員二期、中央委員三期、当時執行委員の組合役員歴が示すように組合の中心的な活動家であり、原告両名と同じように組合活動家であったがために行われた違法、不当な不利益取扱いである。

(四) 以上のように中島村長は従来から一貫して原告両名に対し格付や賃金による差別を行っており、昭和四七年一月一日付本件昇格延伸もその一つのあらわれにすぎないもので、専ら原告両名が組合の中心的活動家であることの故をもってする違法、不当な不利益ないし不平等な取扱いであり、裁量権の濫用として違法である。

3  したがって、本件昇格延伸は、被告伊奈村の代表者村長中島喜雄がその公権力の行使にあたって故意に行った違法なものであるから、被告伊奈村は、国家賠償法一条一項にもとづき、本件昇格延伸によって原告両名の被った損害を賠償する責任があり、その損害額は前記二の2記載のとおりである。

(請求の原因に対する答弁)

一1  請求の原因一項の1、2の各事実は認める。

2  同項の3の事実のうち、原告両名が昭和四七年一月一日付で二等級に昇格しなかった事実は認めるが原告のいう他の同一資格者全員を昇格させたとの事実は否認する。昇格者は原告ら二名を除いた全員ではなく、他の同一資格者で昇格させない者が、原告両名の他にも六名おり、それは訴外米沢弘道、同野口幸雄、同寺田国男、同坂本文男、同岡田幸雄、同山中みついである。

二1  同二項の1の事実は否認する。職員の昇格については、被告伊奈村は、地方公務員法六条、一五条、一七条にもとづいて条例、規則を制定し、それぞれの職に昇格任用しているのであって、二等級以上に昇格任用する場合は、各課長から勤務成績優良職員の報告を受けた中から選考して行う任命権者(被告伊奈村村長)の自由裁量に属する事項であり、一定の資格が満されたからといって、当然に昇格するものではない。

2  原告両名が昭和四七年一月一日付でそれぞれ二等級に昇格したと仮定した場合、別表(一)、(二)の「あるべき給与額」欄記載のとおりに昇給する建前であったこと(但し、昭和四九年三月分まで)は認める。

三  同第三項の事実は否認する。

四1  同第四項の1の事実は認める。

2(一)  同項の2の(一)の事実は認める。

(二)(1)  同項の2の(二)の(1)の事実中、賃上げ協定を破棄したとの事実は認めるが、これは、何百名かの組合員に監禁され、暴力により協定書に署名させられたものであるから、これを破棄したのである。

(2) 同(2)の事実は認める。課長に対し、管理職手当を支給することは当然である。

(3) 同(3)の事実中退職を強要した点は否認する。原告斉藤は当時課長という村長の代理をつとめるような重要な職員であるにも拘らず、組合の中央委員として反対側に立ち、欠勤の許可もうけず組合の違法ストライキに何回となく参加して職場を放棄しているので、これに対しては免職処分が適当であると強く譴責し、依願退職を要求したものである。

(4) 同(4)の事実は否認する。

(5) 同(5)の事実中、原告斉藤を課長から解任した点は認めるが、これは、原告斉藤が当時課長であって、組合役員であるため、管理職手当を支給できないのでなした当然の措置である。

(6) 同(6)の事実中、課長補佐に管理職手当を支給した事実は認めるのが、これにより利益誘導をして組合を脱退させたとの事実は否認する。

(7) 同(7)の事実は認める。

(8) 同(8)の事実は否認する。

(9) 同(9)の事実は否認する。

(10) 同(10)の事実中、原告両名の賃金差別の主張は争う。原告斉藤は、昭和四三年から八年間に九号俸も引上っている。原告斉藤は被告伊奈村の条例によれば、二四ヵ月経過しなければ昇給しないことになっているので五号俸が相当であるが、三号俸も短期昇給し、優遇されているし、また原告小松原は、昭和四三年から八年間に一二号俸昇給しているが、被告伊奈村の条例によれば、一二ないし二四ヵ月昇給になっているので、八号俸昇給が当然のところ、四号俸短期昇給して優遇されている。

(三)  同項の2の(三)の事実中、本件昇格延伸が、専ら原告両名が組合の中心的活動家であることの故をもってする違法不当な不利益ないし不平等な取扱いであって、裁量権の濫用であるとの主張は否認する。昭和四七年一月一日付で二等級に昇格しなかった者は、同一資格者中原告両名以外にも六名いたことは前記一の2記載のとおりであり、原告両名を昇格させなかった理由は次のとおりである。

(1) 原告斉藤は(イ)元被告伊奈村の税務課長(現在は主事)であるが、過去何回もストライキやデモに参加し役場の事務を放棄したため課長から主事に降格された。(ロ)昭和四六年七月一五日、職員のストライキを指導したため、譴責処分を受けている。(ハ)担当の税務関係について、職務に専念勉強していないため、村民からの質問に対して適当な答弁ができず、税務課の窓口にすわりこまれるという事実があった。(ニ)担当課長から昇格相当の報告もなかった。

(2) 原告小松原は(イ)昭和四六年七月一五日、ストライキを指導したため譴責処分を受けている。(ロ)組合の役員事務に専念して、勤務時間中にもかかわらず、組合運動の散らしを印刷したり、隙あらば村長室に侵入して新聞などを見ている等の不行状を行っている。(ハ)勤務時間はでたらめで、例をあげれば昭和四六年一二月中で正しい時刻に出勤しているのは三日だけで、残りは全部遅刻している。(ニ)担当課長からの昇格相当の報告もなかった。

以上のとおり、二等級昇格にあたっては、学歴、在職年数、勤務成績および職務遂行能力などを総合的に判断して決めたもので、原告両名は、不適任と判断したものである。

3  同項の3は争う。

(証拠)≪省略≫

理由

一、請求の原因第一項の1乃至3の各事実については当事者間に争いがない。

二、原告らは、従前被告伊奈村とその職員との間に、職員につき昇格が行われる場合、何らかの合理的理由がない限り、昇格の形式的要件を満せば、有資格者全員が当然に昇格する旨の黙示の合意が成立したものであり、そうでないとしても、みぎのような内容の事実たる慣習があり、これが前示両者間の労働契約の内容となっている旨主張するが、さような内容の合意の成立または事実たる慣習の存在を肯認するに足りる証拠は存在しない。かえって、≪証拠省略≫によれば、被告伊奈村の職員が同一等級における号俸の昇給はともかくとして、上位の異なる等級に昇格するかどうかは、当該職員の在職年数、勤務成績、職務遂行能力等諸般の事情を総合した上、被告伊奈村職員の任命権者である被告村長の裁量によって個別的に決められてきたものであることが肯認できるものであって、以上の事実に照らしても、原告らが主張するような合意の成立、または事実たる慣習の存在を是認するわけにはいかない。よって、原告両名の右主張は採用できない。

三、次に、原告両名は、本件昇格延伸は、中島村長が、専ら原告両名が組合の中心的活動家であることの故をもって故意に行った違法な公権力の行使であるから、被告伊奈村は、国家賠償法一条一項によって、本件昇格延伸により原告両名の被った損害を賠償する責任があると主張するので、以下この点につき判断する。

1  本件昇格延伸は、中島村長の職務執行としてなされたものであることは当事者間に争いがない。

2  ≪証拠省略≫によれば、中島村長は、昭和四七年一月一日付をもって、当時三等級の職にあった職員のうち、中学卒業者については一三年以上、高校卒業者については一〇年以上、短大卒業者については八年以上、大学卒業者については六年以上および学歴とは別に、相当の経験年数を有する者を対象に二等級に昇格させる際、原告両名を昇格させなかったことが認められる。

3  当時原告斉藤は組合の執行委員長であり、同小松原はその書記長であったことについては当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫を総合すれば、組合は昭和三三年四月に結成され、原告両名は組合結成活動に積極的に参加したのち、原告斉藤は、昭和三四年、同三五年に執行委員を、昭和三九年以降は執行委員長を勤め、原告小松原は、昭和三三年、同三四年に書記長を同三五年に副執行委員長を、同三八年から同四〇年までの間および同四二年以降書記長を勤め、いずれも組合の中心的活動家であり、又、組合は、結成直後から職員の労働条件の向上を求めて活発な活動を行い、さらに茨城県筑波郡内の六ヵ町村の職員組合で組織する自治労筑波郡町村職員組合連合会の中心的存在であって、原告小松原は、右連合会の書記長を歴任したこともあることが肯認できる。

4  ≪証拠省略≫によれば、昭和三七年一一月、中島村長は、被告伊奈村の各課長に対して、所謂管理職手当を支給することを決め、昭和三九年四月には、当時組合員であった課長五名(原告斉藤を含む)に対し、管理職手当が支給されていることを理由に組合から脱退することを要求し、その後原告斉藤を除く課長四名が組合を脱退したことが認められ、≪証拠省略≫によれば、昭和三九年一二月には、中島村長は課長補佐五名に対する管理職手当の支給を決定したところ、その後訴外吉村照を除く課長補佐四名が組合を脱退し、さらに、原告小松原本人尋問の結果によれば、昭和四二年、中島村長は係長の等級を一等級引き上げることによって、管理職を係長まで拡大したところ、その後係長六名が組合を脱退した事実を認めることができ、他方、≪証拠省略≫によれば、昭和三七年一二月一四日、中島村長は、原告斉藤が有給休暇をとって他の組合の集会に参加したことをとらえ、課長である原告斉藤が組合活動に積極的であるのは職制としてふさわしくないとして退職するよう要求し、さらに昭和三九年五月一日には、当時保健衛生課長であった原告斉藤を具体的な理由を付すことなく課長職を罷免したことが認められ、≪証拠省略≫によれば、前記昭和三九年一二月に中島村長が課長補佐に対して管理職手当の支給を決めたものの、訴外吉村照は組合を脱退せずにいたところ、中島村長は右吉村に対し昭和四〇年一月分以降の管理職手当の支給を打切り、支給済みの昭和三九年一二月分の管理職手当の返還を求め、又、昭和四〇年四月一日付で課長補佐に任命された訴外堀越栄一が、任命後も組合を脱退しなかったところ、中島村長は、先に出した辞令は間違いであったとしてこれを取戻し、その理由を追及されると、組合員は管理職としてふさわしくない旨答えた事実を認めることができる。

5  ≪証拠省略≫によれば、昭和四九年二月一日現在における原告両名を含む被告伊奈村職員の勤続年数、組合在籍期間役職名は、別表(三)のとおりであることが認められ、右事実によれば、原告両名は、組合を脱退した他の職員に比べ、その勤続年数にもかかわらず役職上著しく劣位におかれていること明らかであり、また≪証拠省略≫によれば、原告斉藤と職種、年令、学歴、家族構成をほぼ同じくする訴外宮田誠治、同飯泉登と同原告との間における昭和四一年から同四九年までの年間給与支給総額、職名、号俸、給料月額の比較は、別表(四)(その一)、同表(五)(その一)記載のとおりで、同様に訴外入江和義、同塚越磯雄らと原告小松原との間における比較は、別表(四)(その二)同表(五)(その二)記載のとおりであることが認められ、右各事実によると、原告斉藤については、昭和四六年度(本件昇格延伸の前年度)の年間給与の実支給額において訴外宮田誠治に比して約三〇パーセント、同飯泉登に比して二六パーセント低く、原告小松原については、訴外入江和義に比して約二〇パーセント、同塚越磯雄に比して一五パーセント低いことが明らかである。被告は、原告斉藤は昭和四三年から八年間に九号俸、原告小松原については同じく八年間に一二号俸それぞれ昇給していると主張するが、かりに右事実が認められるとしても、右事実のみで他の職員とりわけ非組合員との間における給与面の格差を否定することはできない。

6  次に、原告両名に対する本件昇格延伸につき被告の挙示する理由について以下順次検討する。

(一)  原告斉藤が過去幾度となくストライキやデモに参加し役場の事務を放棄したため課長から主事に降格した旨の主張について考えると、原告が役場の事務を放棄してまでストライキやデモに参加したことを肯認できる証拠は存在しない。また同原告が担当の税務関係について、職務に専念勉強していないので、村民からの質問に対して適当な答弁ができず、税務課の窓口にすわりこまれるという事実があった旨の主張について考えてみると、≪証拠省略≫によれば、それは本件昇格延伸ののちである昭和四八年二月下旬のことであり、しかも原告斉藤が担当の税務関係について職務に専念勉強していなかったためにさような事態になったことを肯認できる証拠は存在しない。

(二)  原告小松原が組合の役員事務に専念し、勤務時間中にもかかわらず、組合運動の散らしを印刷したり、隙あらば村長室に侵入して新聞などを見ている等の不行状を行っている旨の主張について考えると、さような事実を具体的に裏づける証拠はなく、また同原告が勤務時間を遵守せず、例えば昭和四六年一二月中で正しい時刻に出勤しているのは三日間だけで、残りは全部遅刻している旨の主張につき検討すると、≪証拠省略≫によれば、なるほど昭和四六年一二月中の出勤状況のみをとらえれば右のような事実を認めることができるけれども、原告小松原の普段の出勤状況につき、他の職員に比べて特に遅刻回数が多いとか、そのために役場の事務に支障を来たしたという点については何らの立証もない。

(三)  原告両名が、昭和四六年七月二一日、譴責処分を受けたことについては当事者間に争いのないところ、被告はこれを本件昇格延伸の理由の一に挙げているので検討を加えると、≪証拠省略≫を総合すると、右の譴責処分は、組合の行なった職場集会につき幹部責任を問うたものであるが、この職場集会は、組合が自治労茨城県本部の指示により人事院勧告完全実施を求める所謂公務員共闘の一環として、始業時刻前三〇分間の予定で実施したところ、これが午前八時からの勤務時間に数分間くい込んだものの、当日の役場事務の遂行上支障はなかったものと認めることができる。

(四)  被告は、さらに原告両名については、担当課長から昇格相当の報告がなかったことを理由の一として挙げているが、前に触れたように職員を昇格させること自体は任命権者である中島村長の裁量行為であり、≪証拠省略≫を総合すると、課長の行なう昇格推せんについては、中島村長自身が予め、過去一年間において譴責処分以上の処分を受けた者を除外するよう指示していたことが認められるから、課長が、原告両名につき昇格相当の意見具申をしなかったことは当然であって、課長の意見具申がなかったということ自体は、中島村長自身の行なった本件昇格延伸の理由とはなしえないものというべきである。

7  しこうして、前記3、4において認定した各事実関係および前記5に説示した被告主張の本件昇格延伸の理由に関する評価を比較検討すると、本件昇格延伸の決定的理由は、原告が組合幹部として積極的に組合活動に従事してきたことにあるものと認めざるをえないのである。

なお、被告は、原告両名以外にも六名の前記形式的有資格者が昇格しなかったと主張しているが、≪証拠省略≫を総合すると、右六名のうち、訴外米沢弘道は、昭和四七年四月に、同山中みついは同年一〇月に昇格し、同野口幸雄は、原告両名同様譴責処分を受けた組合の活動家であり、(なお同人は昭和四八年一月に二等級に昇格している)、また訴外寺田国男は運転手であり、同坂本文男(≪証拠省略≫によれば文雄)、同岡田幸恒はいずれも技術員であって、昇格した他の形式的有資格者のように事務職ではなかったことが認められる。したがって被告の前示主張はしょせん本件昇格延伸の実質的理由に関する前記認定を覆えすに十分とはなしがたい。

四、以上検討したところによれば、本件昇格延伸は、地方公務員法五六条に違反する不利益な取扱であり、違法な公権力の行使といわざるをえない。

したがって、本件昇格延伸は、中島村長がその公権力の行使にあたって故意に行った違法なものであるから、被告伊奈村は国家賠償法一条一項にもとづき、本件昇格延伸によって原告両名の被った損害を賠償する責任があるものというべきである。

五、しかして、原告両名が昭和四七年一月一日付で二等級に昇格したものと仮定した場合、同日以降同四九年三月三一日までの間における原告両名の号俸は、それぞれ別表(一)、(二)「あるべき給与額」の「号俸」欄記載のとおりであり、本俸月額は同表「あるべき給与額」の「本俸月額」欄記載のとおりであり、また受くべき給与額は、それぞれ同表「あるべき給与額」の「本俸」欄および「賞与」欄記載の各支給額のとおりであることは当事者間に争いがなく、以上の事実と弁論の全趣旨を総合すれば、同四九年四月一日以降同五〇年三月三一日までの間における原告両名の号俸および給与額の変遷、経過もまた別表(一)、(二)の前示各該当欄記載のとおりであることが推認できるから、結局、昭和五〇年三月三一日現在における受くべき本俸月額は、原告斉藤の場合は金一五万円、同小松原の場合は金一四万一、八〇〇円であり、また昭和四七年一月一日から同五〇年三月三一日までの間における受くべき給与総額は、原告斉藤の場合は金六三四万七、八九〇円、同小松原の場合は金五七四万九、四六〇円であることは算数上明らかである。

他方、≪証拠省略≫を総合すると、原告両名が昭和四七年一月一日から同五〇年三月三一日までに現実に受給した号俸、本俸月額、賞与額の変遷、経過はそれぞれ別表(一)、(二)記載のとおりであること(甲第四九号証の昭和四八年一二月支給の「賞与」「支給額」欄記載の金二四万五、四七〇円は金二四万五、四三〇円の誤記と認められる。)が推認できるから、昭和五〇年三月三一日現在の本俸月額は、原告斉藤の場合は金一三万八、二〇〇円、同小松原の場合は金一二万二、二〇〇円であり、また前示期間中に支払を受けた給与総額は、原告斉藤の場合は金五八一万三、一九〇円、同小松原の場合は金五一一万五、一四〇円であることは算数上明らかである。

してみると、本件昇格延伸の結果、昭和五〇年三月三一日までに、原告斉藤は金五三万四、七〇〇円、同小松原は金六三万四、三二〇円の得べかりし利益を喪なったほか、同年四月一日以降同五一年一月三一日までの間、原告斉藤は一ヵ月につき前示本俸月額の差額分金一万一、八〇〇円の割合による一〇ヵ月分の金一一万八、〇〇〇円、同小松原も一ヵ月につき前示本俸月額の差額分金一万九、六〇〇円の割合による一〇ヵ月分の金一九万六、〇〇〇円の各得べかりし利益を喪なったものというべきである。しこうして、被告伊奈村は将来とも、本件昇格延伸を正当として維持し、原告斉藤に対しては昭和五〇年一月一日現在の四等級特一三号を基準とし、同小松原に対しては同日現在の四等級特三号を基準として、それぞれ月ごとに本俸(将来昇給があった場合は昇給した本俸額)を支給する意思を有することは、弁論の全趣旨に照らし明らかであるから、原告両名は将来にわたり、月ごとに、少なくとも前示各本俸月額の差額分に相当する得べかりし利益を喪なうものと認めるのが相当であり、かつ将来生ずべき該損害の任意支払は到底期待できないから、予めこれを請求する必要があるものということができる。

六、してみると、原告両名の請求はすべて理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき、同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石崎政男 裁判官 小野聡子 永井ユタカ)

〈以下省略〉

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